単純な建物に見えて、複雑な表情を見せている。
いや単純な作り方で複雑な表情を造り上げている、と言うことのなのだ。
これらの表情の変化は、写真なしには伝えられないことでしょう。それもこのような大判写真でなくては。
銀座オパークで始められた、店舗ファサードの白い光の磨りガラスの大きな面の造りから、
また日立市のパチンコパーラーから始まったアクリル板のゆがみを使ったデザインの展開との融合したものと思える。
もう少し気づいたことがある。
普通の人は建物を見る時には、ほとんど玄関前という至近に立った時にしか建物を意識しないと思う。店舗で言えば、それは1階ファサードのことになる。
店舗オーナーもこのことは良く心得ているから、建築家に設計を依頼してもこれを渡さないのが通常と思われる。この表参道でもほとんどがそうなっている。それはブランドのショーウインドウとしては欠くことのできない最重要なものだと言うことだろう。
だが建築家側に明け渡している店舗1階ファサードもある。
表参道界隈の近作では、このディオールと、青山のヘルツォーク&ド・ムーロンのプラダのことだ。
そしてこの二つに共通しているのが、1階ファサードが建築家。側に属しているどころか、その1階ファサードからの連続性によって、2階以上のファサード全体さえも、一般の人の視線を呼び込んでいるように思える。
これだけ豊かに変化する表情を見せる建築なのだが、後で建築雑誌に載った立面図を見ると、結構驚きですよね。
当たり前だけど立面図では単純なカーテンウォールのビルにしか見えないですね。
まさか立面図に、アクリル板プリントのあんなに細かな横(白)線書いても意味ないし、またあの縦大波形も書き込めないし、虹色の干渉縞も書けない、アクリルの波面が反射する光も書き込めない。はたまた夜間照明に浮かぶ大波面の反射も。
普通の立面図ではもはや何も解らない(示せない)表現の領域に入っていると言うことなのですね。素材と光の反射の複雑な表現を創造する、透明材料の構成と言うところにきていると言うことなのだ。
これはヘルツォーク&ド・ムーロンの仕掛けた表層建築の展開が、このような深みを掴むところまで創造できたと言うことでしょうか。
2004.1.1
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