目黒区総合庁舎(旧千代田生命)見てきました。

                            1966   設計 村野藤吾

                            photo by mirutake  2004.4.3/10


   1966年の魅惑的な建築
   現在への連続性と違和


私にとっては村野藤吾(1891(明治24)−1984(昭和59)(93才))という人は、世代的に過去の人に入っています。密度の高い工芸品のような建築を作り、そして何より装飾的だというのが遠い世代と思わせていました。私たちは装飾は悪だと教えられた世代なのです。(笑)
今回、千代田生命(1966(昭和41))が目黒区総合庁舎となって、一般人も内部が見られるというので、まー行って見るかという感じだったんです。





外観のアルミプレキャストの形状が、いくらか表現派風の感じがあるんだなーと感じることができました。それは鍾乳洞の垂れ下がる感じとか、ガウディの初期マンションなんかに見られる植物の生い茂る感じをなんとかイメージできるように思えました。












車寄せキャノピーは、吹き寄せのステンレスの柱とか、細かなラインのアルミスパンドレルを曲面に張って行くところとか、出隅の形状にエロチックささえ漂わせる特異さを感じることができました。















風除室は通過して、エントランスホールにはいります。
結構あっさりしているなーと言うものでした。十字型照明器具も目立たずひっそりと立っていました。曲線階段がみたいと思っていましたので、さっとデジカメに納めて、通り過ぎてしまったのでした。









曲線階段はその優雅な姿にうっとりしましたが、これも意外に抽象的でシンプル、濃密と言う感じはしません。これもうっかり見てしまった。高い位置の手摺りと、アクリル板の壁手摺りは今回の増設だと友人に指摘され、そうかー、随分ぴったりのデザインだなーと感じ入りました。この階段だけは今回現在の村野事務所でデザインしたとのことでした。これを等取ってしまったら随分シンプルだよね。低い手摺りと、足下なんかずるっとなっていて踏み外しそう。昔はこんなんで良かったんですね。今回の一番高い位置の二本走るステンレス手摺りとか、アクリル板を支える二本のステンレスの丸鋼の曲がりに、植物の蔓が巻き付いている感じがして、装飾の時代の人だなーと思っていたのですが、現在の村野事務所のデザインとは。私たちの持っている村野イメージに合わせることで成ったデザインなのかもしれない。真ん中の三本の水平丸鋼と、それを束ねるステンレスは村野のオリジナルで、ここに上記の植物の感覚がありますね。

なお吊り階段の中心の吊り柱に照明器具が巻き付いており、これが本当は点灯するのですが、今回改修されなかった為、点灯していません。


家に帰って、撮ってきた写真を見ているとすぐに気づきました。
現場では存在感がなかったのですが、アップの十字型照明器具を見ていると何かとても異様な感覚に襲われました。これはいったい何なのだろう。
無垢のアクリルで作られており、全くの現代的材料なので、これがあること自体には違和感はなかったのですが、照明器具だと言われると、光を放っていないことも相まって、異様な感じがします。







   これは何なのか?

答を言ってしまうと、備品のスタンド照明器具を建築で造り付けで作ってしまったと言うことです。造り付け建築スタンド照明と言うことなのです。それはここまで抽象化された形態だと、建築に溶け込んでいて、スタンド照明ということに気付きづらい。それは形態が普通のスタンド照明器具とは余りに違うため、なかなか了解できないと言うところからきている違和感と思ったのです。
スタンド型作り付け照明器具という、全くの前例も無く、ここまで異質な十字型にこだわり、はたまた全く新しい形を当時最新の現代材料を持って、ここまで密度高く作ってしまうと言うのには感嘆した。スターウォーズ的世界に出てくる形象という気もする。そして、ここまで個人的で特異な形象を吐露してしまうところが、現在と遠く隔たってしまうところのように思われた。


今回は部品が主テーマとなったため、現場に立つよりも写真の方が存在感を伝えてきた。
画面いっぱいに写すと、もうそのものしかないという感じになってしまうのが写真だ。
けれども十字型照明器具は大きなホールにひっそりと立っていた。実際のホールで十字型照明器具に最接近して鑑賞していても、ホールの大きさは身体に感じられているから、自ずと照明器具の大きさもそのものとしてあるしかない。だから現場の空間の大きさにこの照明器具の存在感も希薄に感ずる。

十字型照明器具自体は点灯していない。けれどもあたかも光っているかのように、その後壁に光の楕円を描いている。初めは騙されてしまったが、これは改修を担当した設計者が器具自体が点灯できないのなら、少しでもその存在感を高める為に施した配慮のように思われた。おまけにその照明によって、石の壁の反射光が床に写り、ちょうど十字型クロス照明器具の足にきれいに掛かっているのが見られる。












   現代建築の装飾性へ
   村野のディテール 
 

建築でディテールと言うとき、原寸での「建築技術的」な納まりという意味になる。村野のディテールと言うとき、建築家名が入ったこのディテールは、デザインとしての形に重点を置く建物の手触り次元までのことをさす。
そして村野のディテールとは、工芸品のような在り方をとる=装飾建築にはいると考える。今回の建物でも特異な部位納まり形状や、付加された装飾部品に、それは見ることができる。
けれどその範囲に収まるわけではなく、現在への通路を持っていた。これらを列記すると、

1)工芸品を付加する形でやる装飾、(色ガラス壁、トップライトの内側タイル)
2)建築部品の近代デザインでの装飾化(外装アルキャストルーバー、エントランスホールの窓)や、そしてここが独創と思うが、
3)室内「備品」の建築化(十字型スタンド)と言うことだったと理解しました。そして高度な抽象度の高い造形。

家具を建築家が作るというのは今迄にもあります。照明器具を建築家が建築空間と一体にデザインするというのもあります。でも照明スタンドを固定器具とする例はあったでしょうか。すなわち備品を建築化してしまう。

この意味で、妹島和世も同じことをしています。
ディオール表参道。そう、カーテンという備品を曲面アクリル板で固定し建築化してしまったのでした。ただし抽象化では同じですが、特異な形というところで違ってしまいます。

ドレープアクリル板は装飾工芸ではない。
しかし装飾的な優美な在り方を醸し出している。それ自体で光るのではなく、太陽の運行で光ったり陰ったり、天空光の間接反射ではモアレ縞がでたり、夜間照明でまた光るという風に仕込まれている。装飾性が光の変化に任されていること、ここに特徴があると思う。アクリル板の曲面での反射光の光かたに、抽象建築の範囲内での付加された装飾化を目指そうとしていると言うことなのです。装飾に行く一歩手前で、レースカーテンの半遮光という機能以上のところで、形の抽象性の範囲で、面白さと優美さを演出している。ここが妹島和世の時代が村野を追い越しているところです。


装飾工芸品というのは、べっ甲であったり、雲母であったり、金箔であったり、「光り物」を装飾に使うと言うことでしょう。ここのトップライトのタイル貼りというのもこの装飾工芸品にはいるわけです。
現在はこういう光り物装飾工芸品も歴史様式引用も、勿論様式も止めちゃったわけです。そこで始まったのが材料そのものの見直しであり、材料自体での違った見え方へと追求し始めたと言うことのようです。
例えばヘルツオーク&ド・ムーロンのプラダブティック青山店ならば、菱形ガラスにしたり、平面ガラスを凹凸にして、この反射強度の違いに、装飾性を演出しようとしている。
妹島のディオールのアクリドレープしかり、青木純のルイヴイトンシリーズのモアレ縞しかりと言うことでしょうか。

現在の装飾とは、光り物材料を使わないで、形の個性も避けて、一般材料で「きらり」とさせる方法の発見と言うことですか。


   追伸
最後に、目黒区はこれだけの貴重な価値のある建築を残せたのだから、これからは機会あるごとに、装飾の部分の完全改修をしてほしいと思います。十字型照明器具を点灯してほしい、曲線階段の吊り柱の照明器具を点灯してほしいと思います。

この十字型照明器具の抽象で特異な形象から、渡辺誠や、高松伸、山本理顕などの特異さに結びつくことがあるのではないかと思いついたのですが、証明する方法がないですね。
そして彼らが特異さを止めて抽象化に走ってきている現在。


この空間は東側と西側が対比的に構成されている。
東では室内に水が張られ、そこに柱が立っている。
西では外部に砂利が敷かれ、そこに柱が立っている。
東と西で開口部の切り抜き形状・高さが違う。
このような構成が東西で違っていることの意味はわからない。
天井のトップライトのタイル貼りが二つずつで四季を著しているとのことです。

解ることもある。
ここでは壁と柱が同一面になく、柱は自立しており、壁も自立している。この石壁は開口のところでステンレス窓枠に石が張り付いているようにさえ見え、極力薄く軽いものであるかのように見せられている。そしてこの開口の、すなわち石の壁のくり抜き形状は、この石がカーテンであるかのように軽快に見せようとしている。

近代建築の石の壁を軽快に見せようとする意志は、オットーワグナーにも見ることができる。(越後島研一 ル・コルビュジェ/創作を支えた九つの原型 彰国社)

石の壁が軽快になって、ついには高層建築の外装カーテンウォールに、ガラス面と交互に貼り付けられることにもなっている。

                                    040416

   関連hp
目黒区
目黒区総合庁舎

安井建築事務所
村野藤吾の照明器具

   本の紹介
素顔の大建築家たち 弟子の見た巨匠の世界 01 日本建築家協会企画・監修 都市建築編集研究所編集・制作 \2,415 建築資料研究社 A5判 / 277p 2001.6
日本近代建築史の草創期を飾る大建築家を第三者の視点から捉え直した日本建築家協会主催の連続シンポジウムをまとめる。1巻には吉阪隆正、大江宏、アントニン・レーモンド、今井兼次、坂倉準三、堀口捨己、村野藤吾を収録。 (bk1)

村野藤吾のデザイン・エッセンス 1 1 伝統の昇華 本歌取りの手法 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集 \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.5
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第1巻は、歴史的建築物などの存在を本歌取りし、自らの建築的語彙に取り込み、自由自在に捌いた村野の足跡をたどる。〈ソフトカバー〉 (bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 2 2 動線の美学 階段・手摺・通路 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集  \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.5
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第2巻は、村野の多彩かつ独創的な階段デザインを、手摺の意匠を中心に見てゆく。〈ソフトカバー〉 (bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 3 3 外の装い 素材とファサード 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集 \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.8
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第3巻は、村野の多彩な手法による外壁デザインを取り上げて紹介。〈ソフトカバー〉 (bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 4 4 内の装い 素材とインテリア 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集  \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.8
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第4巻は、宗教施設、劇場、議場などをはじめとする、村野による内部空間の光と影の魅力を紹介する。〈ソフトカバー〉 (bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 5 5 装飾の躍動 ホテル・豪華客船 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集  \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.11
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第5巻は、ホテル、迎賓館、豪華客船をはじめとする、もてなし・くつろぎの空間の装飾の魅力を紹介する。〈ソフトカバー〉 (bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 6 6 自然との交歓 建築と庭 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集  \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2000.11
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第6巻は、自然を取り入れた建築や庭の魅力を紹介する。〈ソフトカバー〉(bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 7 7 空への輪郭 屋根・塔屋・キャノピー 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集 \2,940 建築資料研究社 B5判 / 142p 2001.5
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第7巻は、屋根、塔屋、キャノピーの魅力を紹介する。(bk1)
村野藤吾のデザイン・エッセンス 8 8 点景の演出 照明・家具・建具 村野 藤吾〔作〕 和風建築社編集 \2,940 建築資料研究社 B5判 / 143p 2001.5
建築家・村野藤吾の歴史観・風土観を捉えつつ、建築のデザインの可能性を見つめ直す。第8巻は、照明、家具、建具の魅力を紹介する。(bk1)







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